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この記事の要点
- SpotifyとKobaltは、ファンが参加アーティスト・ソングライターの楽曲を使ってAIカバー・リミックスを作る予定ツールのライセンス合意を2026年8月13日に発表した。
- 合意は、5月のUniversal Music Group(UMG)契約、8月4日のMerlin契約に続くもので、SpotifyがUMG以外の音楽出版社と結んだ初の提携となる。
- ツールはSpotify Premium向け有料アドオンとして提供され、参加するソングライターがカバー・リミックスから生まれる価値を共有し、制作物が原曲へリスナーを戻す設計が強調されている。
海外事例:SpotifyとKobaltがライセンス合意を発表
SpotifyとKobaltは2026年8月13日、Spotifyが開発中のファン向けAIカバー・リミックス制作ツールに関するライセンス合意を発表しました。Kobaltは世界最大級の独立系音楽出版社で、約100万曲を管理しています。
Spotifyは、このツールを生成AI技術で動かす有料アドオンとしてSpotify Premiumユーザーに提供する方針を示しています。UMGとの5月の合意で初めて示された枠組みに続き、8月4日には独立系レーベル・配信事業者のライセンス団体Merlinとも同様の合意を結んでいました。Kobalt提携は、UMG以外の音楽出版社との初の合意です。
発表によると、ツールは「参加するソングライターとアーティストが、Spotify上でライセンスされたカバー・リミックスから生まれる価値を直接共有できる制作モデル」を導入します。Spotifyは、参加ソングライターにとって追加の収入源になると説明しています。
SpotifyのCharlie Hellman氏(音楽部門SVP兼グローバルヘッド)は、「カバーとリミックスは楽曲から始まる。だから音楽出版社とソングライターは、このツールを正しく作るうえで不可欠なパートナーだ」と述べ、合意が「同意、クレジット、報酬」に基づいていることを強調しました。KobaltのLaurent Hubert氏(CEO)は、Spotifyの新しいAI制作ツールが「倫理的な学習、公正な報酬、意図的なガードレール」を基盤にしていると評価しています。
3つのCとオプトイン設計
Spotify共同CEOのAlex Norström氏は、8月4日の第2四半期決算説明会で、この製品の設計原則を「3つのC」と表現しました。Consent(同意)、Credit(クレジット)、Compensation(報酬)です。アーティストが自ら作品をカタログに参加させ、ファンがその楽曲をもとにカバーやリミックスを試せる仕組みを目指しています。
UMGとの合意では参加はオプトインで、同意したアーティストとソングライターの楽曲だけがツールの対象になります。Merlinの場合は、Merlin傘下のレーベルに所属するアーティストが個別に参加を選ぶ二段構えです。Merlinのネットワークには3万を超えるレーベルが含まれます。
Kobalt提携では、ソングライターの参加方法や、複数出版社が関わる楽曲の扱いはまだ詳細が示されていません。KobaltがElevenLabsと結んだ既存のオプトイン契約では、機械的権利をKobaltが100%管理する楽曲が対象となる条件があり、今回のSpotify提携でも同様の整理が必要になる可能性があります。
共同CEOのGustav Söderström氏は、次のステップは一部ユーザー向けの研究プレビューで、価格や正式公開時期は未確定としています。ただし全主要レーベルとの合意がなくても開始できると説明し、UMGだけでも十分なカタログ規模があると述べています。
AIエンタメとして注目したい点
SpotifyのAI音楽戦略は、二つの方向で同時に進んでいます。一つは、今回のカバー・リミックスツールのように「既存アーティストの楽曲を軸にした参加型AI体験」です。もう一つは、8月11日に発表したAI Personaバッジで、架空のAI生成アーティストを推薦面から切り離す透明性施策です。
Söderström氏は決算説明会で、この製品は「偽のアーティストではなく本物のアーティスト」を軸にしたものだと投資家に説明しました。大量のAI生成楽曲を配信サービスに流し込む動きとは別に、権利者の同意を前提にした公式のファン参加型AI体験を作ろうとしていることが読み取れます。
制作側では、SunoとBMGの8月12日の提携がレーベル楽曲を対象にしたオプトイン設計を示しました。配信側ではSpotifyがUMG、Merlin、Kobaltと順次合意を広げ、同時にAI Personaの表示と推薦制御を強めています。AI音楽は、制作プラットフォームと配信サービスの両方で「誰の楽曲を、どの条件で、誰が作れるか」を整理する段階に入っています。
日本との比較
日本でもカバー文化は根深く、歌ってみたや弾いてみたなど、ファンが楽曲に触れる二次創作は音楽エンタメの重要な層です。ただし、SpotifyのAIカバー・リミックスツールが日本でどう展開されるかは、日本の権利処理と各プラットフォームの方針に左右されます。
著作権面では、JASRACは2026年6月にガイドラインを更新し、人間による創作的寄与がない完全AI生成作品は著作物に該当せず管理対象外としました。一方、既存楽曲をもとにしたカバーやリミックスは、原曲の著作権・著作隣接権の処理が前提です。Spotifyが掲げる同意・クレジット・報酬の枠組みは、日本でも二次利用の許諾と分配の整理が進む方向と重なります。
配信面では、Believe傘下のTuneCoreは2026年4月から、正式なライセンスを得ていないAI音楽制作プラットフォームで作られた楽曲の配信をブロックする方針を導入しています。Spotifyが権利者同意を前提にした公式のAIカバー体験を作る動きと、ディストリビューターが無許諾AI生成曲の流入を抑える動きは、日本のクリエイターにとっても「どの導線が公式で、どの導線がブロック対象か」の境界を明確にする流れです。
日本のリスナーにとっては、Spotify Japanでこのツールが提供される場合、好きなアーティストが参加を選んだ楽曲だけが対象になるオプトイン設計が重要です。AI Personaバッジと同様、日本でもAI音楽の「誰が作ったか」「どの条件で使えるか」が、楽曲体験の前提情報として増えていく見込みです。
クリエイターとファンが見るべき論点
ファンにとっては、好きな楽曲をAIでカバー・リミックスできる公式ツールが、非公式の二次創作とは別の導線になる可能性があります。参加アーティストが選んだ楽曲だけが対象になるため、「誰の曲を触れるか」はアーティストの意思に依存します。
ソングライターとクリエイターにとっては、出版側の合意が広がることで、楽曲の二次利用が単なるファン文化ではなく、収益とクレジットを含む契約判断になります。KobaltがUdioとも2026年4月にライセンス契約を結んでいるように、AI音楽プラットフォームごとに参加条件が異なる可能性があります。
一方で、Sony Music EntertainmentはSunoとUdioへの訴訟を継続中であり、業界全体の合意にはまだ距離があります。Spotifyのカバー・リミックスツールは同意ベースですが、全カタログが対象になるわけではありません。制作や配信を考えるときは、利用先のAI表示方針と、楽曲の権利状態をセットで確認する必要があります。
出典
- Spotify and Kobalt Announce Licensing Agreement for Fan-Made Covers and Remixes | Spotify
- Spotify and Merlin Announce Licensing Agreement for Fan-Made Covers and Remixes | Spotify
- After Universal and Merlin deals, Spotify inks agreement with Kobalt for AI-powered fan-made covers and remixes | Music Business Worldwide
- Spotify expands AI remix and covers project with Merlin partnership | TechCrunch
